六丈記2

備忘録のようなもの

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産経の朴大統領名誉毀損事件<4>

◆情報通信網法
 加藤ソウル前支局長は名誉毀損で起訴されたが、罪名は刑法の名誉毀損罪ではなく情報通信網法違反だった。両法の違いを見てみるために該当条項を比較してみる。
*** 情報通信網法 ***
第1章 総則
第1条(目的)この法律は、情報通信網の利用を促進し、情報通信サービスを利用する者の個人情報を保護するとともに、情報通信網を健全かつ安全に利用することができる環境を造成し、国民生活の向上と公共の福祉の増進に資することを目的とする。
第10章 罰則
第70条(罰則)
(1)人を誹謗する目的で情報通信網を通じて公然と事実を暴露し他人の名誉を毀損した者は、3年以下の懲役もしくは禁錮または2千万ウォン以下の罰金に処する。
(2)人を誹謗する目的で情報通信網を通じて公然と虚偽の事実を暴露し他人の名誉を毀損した者は、7年以下の懲役、10年以下の資格停止または5千万ウォン以下の罰金に処する。
(3)第1項及び第2項の罪は、被害者が具体的に明らかにした意思に反して公訴を提起することができない。
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*** 刑法 (韓国) ***
第33章 名誉及び信用に関する罪
第307条 (名誉毀損) 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮又は250万ウォン以下の罰金若しくは拘留に処する。<改正 2005年4月1日>
② 公然と虚偽の事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、2年以下の懲役又は500万ウォン以下の罰金若しくは拘留に処する。 <改正 2005年4月1日>
第308条 (死者の名誉毀損) 公然と虚偽の事実を摘示し、死者の名誉を毀損した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮又は500万ウォン以下の罰金又は拘留に処する。<改正 2005年4月1日>
第309条  削除
第310条 (違法性の阻却) 第307条第1項の行為が、真実の事実であり、専ら公共の利益に関するときは、罰しない。
第311条 (侮辱) 公然と人を侮辱した者は、150万ウォン以下の罰金に処する。<改正 2005年4月1日>
② 公然と死者を侮辱した者も前項と同様にする。<改正 2005年4月1日>
第312条 (告訴及び被害者の意思) 第308条及び第311条の罪は、告訴があるときに限り、公訴を提起することができる。
② 第307条の罪は、被害者の明示の意思に反して公訴を提起することができない。
第313条 (信用毀損) 虚偽の事実を流布し、又はその他の偽計を用いて、人の信用を毀損した者は、2年以下の懲役又は500万ウォン以下の罰金若しくは拘留に処する。<改正 2005年4月1日>
第314条  削除
第315条  削除
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 起訴状には「虚偽の事実を概括した」となっているので、情報通信網法では第70条2項が、刑法では第307条2項が該当する。その場合、量刑の違いはこの様になる。
●情報通信網法→懲役7年以下、資格停止10年以下又は罰金5千万ウォン以下
●刑法→懲役2年以下又は罰金500万ウォン以下若しくは拘留
 刑罰は、刑法よりも情報通信網法の方がかなり重い。ソウル中央地検は量刑のより重い情報通信網法を選択したと勘ぐりたくなるが、冷静に考えれば、情報通信網法は刑法に比べ新法であり特別法であるから、新法優先の原則や特別法優先の原則に従ったということなのか。

◆名誉毀損罪
 この事件は、市民団体の告発によりソウル中央地検が捜査し、起訴に至っている。朴大統領らが告訴した訳ではない。
 日本では、名誉毀損罪が親告罪であることが刑法232条に明記されているから、犯罪被害者(もしくは法により定められた親族等の告訴権者)が捜査機関に対して告訴しなければ事件にならない。
*** 刑法 (日本) ***
第34章 名誉に対する罪
(名誉毀損)
第230条  公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)
第230条の2 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(侮辱)
第231条  事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
(親告罪)
第232条  この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。
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 一方、韓国では、名誉毀損罪が刑法312条2項で「被害者の明示の意思に反して公訴を提起することができない」となっている。つまり、被害者が「処罰を望まない」という意思表示をしなければ起訴可能ということである(反意思不罰罪)。この点で情報通信網法も同様である。

 朴大統領は加藤ソウル前支局長の起訴に対し沈黙している。朴大統領が「処罰を望まない」と意思表示すればそれで終わりなのであるが、諸外国からも批判を浴びても、朴大統領は起訴について何ら具体的に語っていない。
 朴大統領は、「空白の7時間」に関して9月16日に「国民を代表する大統領を冒とくする発言も度を越している。国民への冒とくでもあり、国家の威信と外交関係にも悪影響を与えかねない」と強い不快感を示していた。この発言がソウル中央地検の起訴を後押ししたとも言われている。大統領側が、検察に指示したというのが真相かもしれないが、ソウル中央地検が独自に判断したということになっている。朴大統領の指示があったにしろ無かったなしろ、朴大統領が黙認していることは確かである。
 朴大統領は、大統領への侮辱が韓国の威信や外交に悪影響を及ぼすと主張しているが、実際には加藤ソウル前支局長を起訴したことで韓国のイメージダウンになったことは明らかである。朴大統領の本心は、韓国のイメージダウンになっても「侮辱は許せない」ということなのであろう。

◆韓国社会の名誉毀損に対する感覚
 加藤ソウル前支局長が起訴された後、韓国人記者が「国家元首であり、日本における首相よりも大きな権力があると受け止められている」「その権威を傷つける私生活の疑惑を報じた産経側に問題がある」と言っていたそうである。権力の大きさからすると、アメリカ大統領は韓国大統領より大きいであろう。それでも、クリントン元大統領の不倫スキャンダルが発覚した時に厳しく追及したマスコミに対し、大統領の権威が失墜させるなとの非難はなかった。権力者の名誉に関し、韓国社会の中には独特の感覚があるのかもしれない。

 名誉毀損は事実の有無にかかわらず成立するが、日本では公務に携わる者に関し、真実である場合は免責される(刑法230条の2の3項)。ところが、韓国ではこれに当たる条文が無い。
 憲法を見てみると、日本も韓国も言論の自由が明記されている。だが、韓国の憲法では、同時に名誉や権利を侵害してはならないとしている。
*** 日本国憲法 ***
第二十一条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
********************
*** 大韓民国憲法 ***
第21条① すべての国民は、言論及び出版の自由並びに集会及び結社の自由を有する。
② 言論及び出版に対する許可又は検閲並びに集会及び結社に対する許可は、認められない。
③ 通信及び放送の施設基準並びに新聞の機能を保障するために必要な事項は、法律で定める。
④ 言論及び出版は、他人の名誉若しくは権利、公衆道徳又は社会倫理を侵害してはならない。言論及び出版が、他人の名誉又は権利を侵害したときは、被害者は、これに対する被害の賠償を請求することができる。
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 韓国は憲法で、言論の自由には制限があることを明確にし、名誉を重要視する姿勢をみせている。
 また、公共的利益保護のために公人の名誉はより制限されるというのが民主主義社会における認識であると思うが、韓国の刑法には公人に関する規定が無く、ここからも名誉保護重視の姿勢が見られる。

 加藤ソウル前支局長が起訴された後、読売新聞が以下の記事を載せた。
*** 朴政権、大統領批判に過剰反応…民事訴訟も乱発 ***
 韓国の検察当局は8日、朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を毀損(きそん)したとして、産経新聞の前ソウル支局長を在宅起訴するという強硬手段に打って出た。
 韓国では、これまでにも政権側が批判的なメディアに対し、民事訴訟を起こしたり、刑事事件化したりして対抗してきた。しかし、国外の報道関係者が名誉毀損の刑事事件で起訴されるのは異例だ。
 朴政権は、今回の産経の事件を含め、大統領個人の名誉に関わる事案に敏感に反応してきた。大統領府秘書室などは4月の旅客船沈没事故以降、韓国紙・ハンギョレを名誉毀損で訴えるなど、少なくとも5件の民事訴訟を起こした。
 韓国の言論仲裁委員会によると、今年、国や自治体が報道機関に訂正や損害賠償を求めた件数は、6月までに101件に上った。メディアを訴えることが日常化しているとも言える。
 だが、今回のケースでは市民団体の告発を受け、検察が刑事事件として捜査。韓国政府のより厳しい姿勢が浮かび上がる。
 韓国では、批判的なメディアに対し、政権が検察の捜査という強硬手段で対抗するという図式が繰り返されてきた。
 かつての軍事独裁政権下では韓国の報道機関は当局の検閲を受けていたが、1987年の民主化以後は、むしろ報道機関が絶大な影響力を発揮するようになった。これを受けて政権側は、報道機関を手なずけようと苦心してきた。その一方で、批判的なメディアが政権運営を著しく困難にする報道を行った場合は、検察が捜査し、けん制する材料として利用した。
(読売新聞 10月9日)
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 韓国では、国や自治体が安易に名誉毀損訴訟を起こしている実態が見て取れる。日本や欧米で同様なことを行えば、政治的な抑圧との批判は免れないであろう。名誉毀損罪が親告罪でないことといい、韓国では名誉毀損に対する考え方が大きく異なっているのではないかと思える。
 ジャーナリストの起訴はある種の驚きをもって伝えられたが、韓国社会ではそうではないのかもしれない。朴大統領はじめ多くの韓国人の感覚では、非難をする日本や欧米の方が非常識と捉えているのではないかと思えてくる。

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韓国の「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律」を訳してみた(その2)
http://d.hatena.ne.jp/nilnil/20140214/1392300784
刑法 (大韓民国)
http://ja.wikisource.org/wiki/%E5%88%91%E6%B3%95_(%E5%A4%A7%E9%9F%93%E6%B0%91%E5%9B%BD)
韓国における性犯罪被害者支援及び性犯罪関連施策
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/boryoku/siryo/pdf/bo63-2-1.pdf
大韓民国憲法
http://www.geocities.jp/koreanlaws/kenpou.html#ch2
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