六丈記2

備忘録のようなもの

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アイヌ民族はいないと発言した札幌市議3

 金子市議のツイッター騒動は、議員辞職勧告にまで発展しています。どうしてここまでに至ったのか、改めて振り返ってみます。
 問題は、金子市議のツイッター上でのやり取りから始まりました。
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●金子快之 8月6日
またもや、札幌市役所に韓国国旗が掲げてありました。いったい札幌はどうなってしまったのでしょうか。強く正しい札幌を取り戻さなければなりません。
●burabu 8月10日
市長が朝鮮学校を差別してはいけないと話した記事を読売で読みました。もう、決定です。札幌の人間ではありませんが、監視し、闘います。北海道にはアイヌ民族の問題もあるので。
●金子快之 8月11日
アイヌ民族なんて、いまはもういないんですよね。せいぜいアイヌ系日本人が良いところですが、利権を行使しまくっているこの不合理。納税者に説明できません。
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 金子市議は騒動を巻き起こそうとした訳ではありませんが、このやり取りの中の言葉が問題視されて、ツイッター上で批判が集まり、17日の新聞報道につながったようです。金子市議のサイトのコメント欄にある書き込みにはこんなものがありました。
***** コメント *****
なぜ大新聞社がここまで大上段に叩くのか?
そもそも本件が毎日新聞社の記事になったのは、
大阪は鶴橋にいる方が、どこかの新聞社の記者に、
記事にするよう働き掛けたことが発端のようです。
https://pbs.twimg.com/media/BvOpTKTCAAEkX1z.jpg:large
※該当のツイートは既に削除されています。
なぜ大阪と札幌がつながっているのか?
被差別をうたって利権を貪ろうとする団体に
利用されないよう、我々市民は十分に留意すべきです。
******************
 ツイッター上での批判に終わらせずに、大々的にバッシングしようと画策した者がいたようです。
 その思惑に乗ったのが毎日新聞で、北海道アイヌ協会の口を借りて「不見識」と批判したのに加え、「ネット上で自説」と書いてしまいました。知里名誉教授の説を知らず、思い込みで書いてしまったのでしょう。毎日新聞は、また低能な地方議員が問題を起こしたという感覚だったのかもしれません。
 ところが、毎日新聞は思わぬ反撃を受けます。金子市議がサイト上で、自説ではなく世界大百科事典の記述だということを明らかにしたのです。金子市議は大学図書館で世界大百科事典の記述を発見したかのようにブログで書いていますが、的場光昭氏の著書に出典まで書かれていることです。改めて的場光昭氏の著述内容を確認したということでしょう。
 ともあれ、名指しで反論された毎日新聞は慌てたに違いありません。しかし、その反論のエントリーのコメント欄に書かれたコメントを見て、助かったとの思いになったのではないでしょうか。コメント欄には次のように書かれていました。
***** コメント *****
平凡社世界大百科のアイヌの項は、内容が差別的で誤りがあったとして、
平凡社が謝罪して訂正の小冊子まで配っています。
http://www.kokusen.go.jp/recall/data/s-20070428_1.html
さらには、これがきっかけで全体の大改訂が行われました。
こういった経緯をご存知の上で、上記の記事を載せていらっしゃるのでしょうか。
******************
 金子市議が取り上げたのは世界大百科事典の2005年版でしたが、上記のコメントが平凡社の改訂告知を示し、2007年版から改訂されていたことが明らかになりました。毎日新聞はこのコメントを参考にしたのでしょう。改訂前の事典引用して反論するのは不適切だと一蹴したようです。この報道により、反論は封じられ、所属会派の自民党・市民会議が不処分としたことも批判に晒されることになりました。
 それでも、金子市議がツイッターでの発言を撤回しないため、騒動は続きました。ただ、金子市議は発言を撤回しない一方で、サイトの記述は削除していたようです。北海道新聞の記事(8月18日:「アイヌ」証明根拠、現行法にない 金子札幌市議、ブログに)からすると、金子市議のサイトには「アイヌ文化や歴史を否定するものではありません」、「『アイヌ』を法的に証明する根拠が現行法にない」、「行政からの便益を獲得すること」、「『自称』『推定』を認める客観性の乏しい仕組み」と書いてあったようですが、今はありません。
 それはそうとして、騒動は、アイヌ有志が「金子やすゆき市議のアイヌ民族差別発言を究明する共同実行委員会」を作り、質問状を金子市議の所属会派に提出して回答と謝罪を求めるに至りました。これが自民党・市民会議の方針転換を促し、金子市議に撤回と謝罪を求めることになったものの、金子市議が従わないため会派離脱勧告、除名という流れになりました。追い込まれた金子市議は、「自由に発言する立場を取り戻す」として、自ら所属会派を離脱しましたが、更に議員辞職を迫られる事態になっています。

 ターニングポイントは2007年版の改訂が示されたことでしょう。よって、記述の変遷を調べてみます。
 まず、世界大百科事典の2005年版を金子市議のサイトから転載します。
*** 世界大百科事典2005年版「アイヌ」の項 ***
今これらの人々は一口にアイヌと呼ばれているが、その大部分は日本人との混血によって本来の人種的特質を希薄にし、さらに明治以来の同化政策の効果もあって、急速に同化の一途をたどり、今はその固有の文化を失って、物心ともに一般の日本人と少しも変わることがない生活を営むまでにいたっている。したがって、民族としてのアイヌは既に滅びたといってよく、厳密にいうならば、彼らは、もはやアイヌではなく、せいぜいアイヌ系日本人とでも称すべきものである。
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 金子市議の調べでは1955年版からこの記述があるそうです。ちなみに、この項は、故・知里眞志保北海道大学名誉教授が担当したものです。
 次に、平凡社の改訂告知を示します。
*** 『世界大百科事典』「アイヌ関連項目集」についてのお知らせ ***
このたび、小社では『世界大百科事典』の「アイヌ」の項目を全面的に改稿することといたしました。現行の同項目は、1970年代後半の編集になるもので、アイヌ民族が日本の先住民族であるとの視点にないものであり、現時点では適切なものではないばかりか、アイヌ民族に対する偏見や差別を助長しかねないとの認識にいたったためです。この改稿は本年秋に予定しております同百科事典の2007年版に反映いたしますが、2002年以降にご購入いただき、読者登録をされている皆さまには、改稿あるいは今回新規に立項します項目を小冊子「アイヌ関連項目集」にまとめ、お届けいたします。なお、小社で把握できない購読者の皆さまにつきましては、下記へお問い合わせください。読者の皆さまはじめ関連項目の当事者、利用者の皆さまにはご迷惑をおかけいたしますが、上記経緯につきご理解いただき、ご容赦くださいますようお願いいたします。
 平成19年4月28日
  〒112-0001 東京都文京区白山2-29-4
  株式会社 平凡社 営業部
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 版を重ねる内に、辞書類の内容が変わることは珍しくありません。だけど、「内容が変わること」を告知することは普通しません。版が変わった時に新しい内容に差し替えるだけです。平凡社は、「改稿すると決めた」というだけなのに告知し、新しい原稿が出来たら過去に販売した事典にまで反映させるという異例の対応をしています。何故、この様な対応になったのでしょうか。
 この改訂告知が出された頃は、先住民族にとって重要な時期でした。この前年には、20年以上起草作業が続けられていた「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が国際連合人権理事会で採択(2006年6月29日)され、翌年に国連総会で決議(2007年9月13日)されています。日本は、総会での決議に賛成し、2008年6月に国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を全会一致で採択していました。
 この様な先住民族の権利獲得の動きに呼応した団体があったのでしょう。そういう団体が平凡社に「差別的な記述」と抗議し、平凡社は圧力に屈して取り合えず変えることを表明したのだと思います。そうでもないと、この奇妙な告知を理解できません。学術的に間違いがあったと判断したのではなく、差別と糾弾されたから改訂したのでしょう。
 さて、世界大百科事典2007年版はどんな記述になったのでしょうか。「kotobank」には以下のように記述してありました。
*** 世界大百科事典2007年版「アイヌ」の項 ***
アイヌ【Ainu】
アイヌをどう定義するか,とりわけ現代のアイヌをどう認識し,どう定義するか,という問題は,彼らを取り巻く歴史的環境とその中での彼らの自己認識のあり方や,〈民族〉の定義の問題とも深く関わっているだけに,その定義のしかたは,時代とともに大きく揺れ動いてきた。1960年代ころまでのアイヌの現状に対する研究者を含めた大方の認識の特徴は,彼らを和人とは異なる固有の文化を有した一つの民族とはみないで,彼らは,いずれ和人に同化される,との認識を前提にして,〈アイヌ系住民〉〈アイヌ系日本人〉と称したところにある。
**************************************************
 これは「アイヌ」の解説というより「60年代のアイヌ研究者」を解説する記述になっています。それで、これがこの項の全ての記述ではないのではと思い、検索を進めると、「ウィキまとめ」にそれらしき物がありました。たぶん、これが世界大百科事典2007年版の記述だと思います。前文の次に目次があり、1.民族の系統と人口、2.歴史、3.起源、4.体質、5.物質文化、6.社会組織、7.宗教、8.文学、9.音楽、10.舞踊についての解説がありますが、前文の部分だけ転載します。
************ ウィキまとめ「アイヌ」 ************
Ainu∥Aynu
アイヌをどう定義するか,とりわけ現代のアイヌをどう認識し,どう定義するか,という問題は,彼らを取り巻く歴史的環境とその中での彼らの自己認識のあり方や,〈民族〉の定義の問題とも深く関わっているだけに,その定義のしかたは,時代とともに大きく揺れ動いてきた。1960年代ころまでのアイヌの現状に対する研究者を含めた大方の認識の特徴は,彼らを和人とは異なる固有の文化を有した一つの民族とはみないで,彼らは,いずれ和人に同化される,との認識を前提にして,〈アイヌ系住民〉〈アイヌ系日本人〉と称したところにある。こうしたこともあって,アイヌ民族の学者である知里真志保でさえ,〈今やその固有の文化を失って,物心ともに一般の日本人と少しも変わるところがない生活を営むまでにいたっている。したがって,民族としてのアイヌはすでに滅びたといってよく,厳密にいうならば,彼らは,もはやアイヌではなく,せいぜいアイヌ系日本人とでも称すべきものである〉(平凡社《世界大百科事典》旧版,1955年刊)と記さざるをえなかった。しかし,後述のように,1984年北海道ウタリ協会が〈アイヌ民族に関する法律(案)〉(通称〈アイヌ新法〉)を採択し,政府に〈アイヌ新法〉の制定を求める運動を展開して以来,アイヌ民族の歴史や文化,さらにはアイヌ民族の現状に対する国民の関心がしだいに高まり,こうした状況を大きな背景としてアイヌ民族の歴史や現状に対する認識も大きく変化してきた。したがってここでは〈アイヌ〉を,主として北海道に居住する日本の先住少数民族,と定義しておく。
**************************************************
 つまり、「アイヌ団体の政治運動によって社会の民族に対する認識が変化し、『アイヌの定義』も多様化した。そのため、統一的な見解を見出せないため、取りあえず『主として北海道に居住する日本の先住少数民族』ということにして解説する。」ということでしょうか。

 国語辞書で「民族」を調べると、こう書いています。
****** 国語辞書「民族」 ******
みん‐ぞく【民族】
言語・人種・文化・歴史的運命を共有し、同族意識によって結ばれた人々の集団。「騎馬―」「少数―」
********************************
 一般人の「民族」に対する理解はこの程度のものでしょう。ですが、学問的には、その定義は多様で、民族の区分も歴史的社会的に変化し、固定的で永続的なものではないそうです。それに、「民族」という言葉は、外国語(ドイツ語では「Volk」「Ethnos」「Nation」、英語では「people」「ethnic group」「nation」)を訳したものですが、厳密に分けなかったために、日本語の「民族」は多義性、特にネーションnationとエトノスethnosの2つの意味を持つそうです。
 幾つかの辞典類から「民族」の解説を挙げてみます。
***** 知恵蔵2014「民族」 *****
文化、言語、生活様式などの特定の要素を絆(きずな)として共有し、「われわれ」という意識を持った人間集団。(1)文化、宗教、言語、生活様式、肌の色など身体的形質を標識として、他集団との相違を確認できる客観的な側面と、(2)歴史意識、利害関心、未来志向などを介して、集団に共属しているという意識や感情の主観的な側面がある。そのため民族やエスニック・グループは固定した集団ではなく、歴史的に変化し、社会的文脈によって客観的標識も異なる。また、少数民族がその内にさらに少数集団を含むことも多い。民族とエスニック・グループとの相違は不明確である。ただし民族という用語の方が古く、また「民族自決」「少数民族運動」といった用法のように、集団が自治や国家形成など政治共同体としての要求を持つと認められた場合には、民族と呼ばれることが多い。
( 坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 )
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*** 世界大百科事典 第2版 ****
みんぞく【民族】
ギリシア語のエトノスethnos(ドイツ語やロシア語では,ふつうこの語形を用いる),それから派生した英語のethnic groupあるいはethnic unitに対応する学術用語であるが,日常用語としても用いられる。多くの民族学者(文化人類学者)の考えでは,民族とは次のような性格をそなえた集団である。第1に,伝統的な生活様式を共有する集団である。つまり語族や語群が言語の系統分類にもとづき,人種が身体形質を基準とした分類であるのに対して,民族は文化にもとづいて他と区別される集団なのである。
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******* 大辞林 第三版 ********
みんぞく【民族】
「われわれ…人」という帰属意識を共有する集団。従来,共通の出自・言語・宗教・生活様式・居住地などをもつ集団とされることが多かった。民族は政治的・歴史的に形成され,状況によりその範囲や捉え方などが変化する。国民の範囲と一致しないことが多く,複数の民族が共存する国家が多い。
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**** 百科事典マイペディア ****
民族 【みんぞく】
日本語の〈民族〉は包括的な概念であり,ナショナリズム(国民国家への志向)の主体としての国民nationをさす場合,国民国家内部における〈われわれ〉意識をもつエスニック集団(エスニシティ)をさす場合,さらに国民国家を形成する以前の〈われわれ〉意識をもつ集団(部族など)をさす場合がある。
※本文は出典元の用語解説の一部を掲載しています。
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** ブリタニカ国際大百科事典 **
民族
みんぞく
ethnic group; nation; people
一定地域に共同の生活を長期間にわたって営むことにより,言語,習俗,宗教,政治,経済などの各種の文化内容の大部分を共有し,集団帰属意識 (→エスニック・アイデンティティ ) によって結ばれた人間の集団の最大単位をいう。
本文は出典元の記述の一部を掲載しています。
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 「アイヌ民族はもういない」と言った場合、「民族」をどういう意味で使ったのか、「民族の定義」についてどのような学説によっているかによって、その正否の判断は分かれるということなのでしょう。だから、いくら論争しても学術的な深みに嵌るだけで、決着は付かないように思います。

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『世界大百科事典』「アイヌ関連項目集」についてのお知らせ
http://www.kokusen.go.jp/recall/data/s-20070428_1.html
世界大百科事典 第2版の解説 アイヌ
http://kotobank.jp/word/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%8C?dic=sekaidaihyakka&oid=00087065
ウィキまとめ アイヌ
http://wikimatome.com/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%8C
民族
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E6%97%8F
kotobank 民族
http://kotobank.jp/word/%E6%B0%91%E6%97%8F
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