六丈記2

備忘録のようなもの

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中国の防空識別圏について4

・・・中国の防空識別圏について3の続き
 
 
◆国際民間航空機関
 国際民間航空機関(ICAO)は、国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づき1947年4月4日に発足した国連の専門機関。加盟国は191ヶ国(2012年末現在)。理事国は、アメリカイギリスフランスロシア中国、日本、オーストラリア韓国などの36ヶ国。
 ICAOの目的は国際民間航空の安全かつ秩序ある発展であり、この目的のために国際航空運送業務やハイジャック対策のための条約の作成、国際航空運送に関する国際標準、勧告、ガイドラインの作成などを行っている。
 目的の一つである国際航空交通の円滑で安全な流れを促進するため、ICAOは、世界の空を分割し、飛行情報区(FIR)を設定している。FIRを割り当てられた国は、その空域の航空交通業務(航空交通管制業務、飛行情報提供業務、警急業務)を担当する。つまり、その空域の管理者となり、航空機に指示や情報提供などを行って安全で効率的な運航を出来るようにし、事故時には捜索・救助作業も提供する責任を負うのである。
 航空機側には、飛行するFIRの航空交通管制機関に飛行計画(ATCフライト・プラン)を提出して承認を得ることが義務づけられている。飛行計画には、航空機の国籍記号、登録記号と無線呼び出し符号、航空機の型式、機長の氏名、計器飛行方式または有視界飛行方式の区別、出発地と出発時刻、巡航高度における真対気速度、使用する無線設備、代替飛行場、搭載燃料による飛行可能時間、搭乗する総人数、その他航空交通管制や捜索救助のために参考となる事項が含まれている。
 例えば、国際線のフライト・プランの流れは次のようになっているようである。
●離陸前、機長が出発国の管制機関に提出

●出発国の管制機関が通過国の管制機関に伝達

●通過国の管制機関が目的国の管制機関に伝達

●目的国の管制機関が出発国の管制機関に伝達

●各国の承認を確認し、出発国の管制機関が機長に承認を出す
 
 日本付近のFIRの設定状況は、以下の図のようになっている。
 
 東シナ海空域を拡大する。
 
 日本と台湾との間は、東経124度のラインで区切られているのが確認できる。東経124度上を更に拡大すると、石垣島と西表島の間に東経124度のラインが通っているのが分かる。西表島や与那国島が台北FIRに含まれているのは、実務上不都合がないのかと思うが、FIRが国境を表すものではないことの左証である。
 
 

 日本の防空識別圏と福岡FIRを重ねると下図のような感じになる。
 
 福岡FIR内に防空識別圏は概ね収まっているが、はみ出ている部分もある。特に日本海では、ロシアのシベリア沿岸近くまで張り出している。防空識別圏は国防上の理由から、FIRは民間航空機の航行のために設けられているものであるから、包括範囲が合致しなければならないというものではない。だから、中国が上海FIRを越えて防空識別圏を設定したということだけをもって、一方的に責め立てることは出来ない。
 
 
◆日中の防空識別圏における取り決めの比較
 日本の主権は、公空には及ばないので、防空識別圏を飛行しても自衛隊に飛行計画などを通報する義務は無い。だが、中国は飛行計画の提出などを義務付けている。対する日本はどうなのか、中国国防部の公告と自衛隊の訓令を比較してみる。
△飛行計画について
中国
●東シナ海防空識別区航空機識別規則公告2条1項
 飛行計画識別。東シナ海防空識別区を飛行する航空機は、中華人民共和国外交部あるいは民間航空局に飛行計画を通達しなければならない。
<自衛隊>
防衛庁訓令第36号第3条
 機長は、次の各号に該当する場合には、飛行計画を通報する際、それぞれ当該各号に掲げる事項を、適当な方法で、防空管制群又は警戒群に対して通報しなければならない。
●自衛隊統合達第6号第3条
 訓令第3条に規定する防空管制群、警戒群又は警戒隊に対する通報は、次の各号に定めるところにより行うものとする。
 
 程永華駐日大使は「この区域における民間航空機の飛行に影響を来すことはない」(11月27日)と言っていたが、中国は民間航空機を含む航空機に飛行計画提出を義務付けている。一方、日本は「飛行計画を通報する際」の方法を決めているだけである。飛行計画を提出するなら、こういう方法を取りなさいとしているだけで、飛行計画提出を義務付けている訳ではない。
 ちなみに日本の場合、通常、飛行計画は航空交通管制部に提出され、国土交通省の飛行情報管理システムが処理し、防衛省に送られている。
 
△無線について
中国
●東シナ海防空識別区航空機識別規則公告2条2項
 無線識別。東シナ海防空識別区を飛行する航空機は、双方向無線通信を維持し、東シナ海防空識別区管理機関または委任機関からの識別の問い合わせに速やかにかつ正確に必ず回答しなければならない。
<自衛隊>
●自衛隊統合達第6号第4条
 機長は、次の各号に該当する場合には、それぞれ当該各号に定めるところにより当該各号に掲げる事項を、適当な方法で、防空管制群又は警戒群に対して通報しなければならない。
2 前項の規定は、同項各号に該当する場合において、当該航空機に無線による通信の設備又は配員が欠けているか又はこれが十分でないため同項の通報をするための無線による通信をすることができないときは、適用しない。
●自衛隊統合達第6号第5条
 機長は、次の各号に該当する場合には、その旨を、遅滞なく、適当な方法で、防空管制群又は警戒群に対して通報しなければならない。
●自衛隊統合達第6号第4条
 訓令第4条及び第5条の規定に基づく通報は、防空管制群、警戒群若しくは警戒隊に直接に、又は防衛省若しくは国土交通省の航空交通管制機関を通じて実施するものとする。
●自衛隊統合達第6号第5条
 機長は、防空識別圏を飛行中に飛行計画を変更又は訂正する場合には、その旨を遅滞なく防空管制群、警戒群又は警戒隊に対して通報するものとする。
●自衛隊統合達第6号第6条
 防空識別圏を飛行する航空機は、支障のない限り、警戒群又は警戒隊の使用する周波数又は緊急周波数による通信を、常時受信できる状態にしておくものとする。
 
 日本は様々な飛行方法を想定しているためか、細かく規定を設け通報を義務付けているが、無線通信可能な状態にしておくことは義務ではなく要請である。一方、中国は無線通信可能な状態にしておくことを義務とし、返答まで義務化している。ここが日本の場合と大きく違うところである。日本は返答を義務化していない。
 例えば、軍用機が防空識別圏(公空)を飛行した場合、中国には回答せねばならず、日本には通信を交わさなくともいいということになるだろうか。
 
△識別装置について
 レーダーサイトから電波を発射し、航空機に当たって戻ってきた電波を捉えるのが一次レーダー。レーダーサイトからの信号を受けた航空機が発した信号を捉えるのが二次レーダー。航空機に搭載され、二次レーダーのために自動的に応答信号を発信する装置がトランスポンダ。トランスポンダの一種で敵味方識別を行う装置がIFFとSIF。航空機には通常トランスポンダが搭載されていて、識別情報などを送信している。
中国
●東シナ海防空識別区航空機識別規則公告2条3項
 トランスポンダ識別。東シナ海防空識別区を飛行する航空機は、搭載している二次レーダートランスポンダを全行程で作動させること。
<自衛隊>
●自衛隊統合達第6号第6条2項
 IFF又はSIFを装備した航空機は、別に示す手順により識別のため必要な表示を行うものとする。
 
 中国は航空機全般について規定しているが、日本は軍用機(自衛隊機や米軍機)に対するものであろうか。
 
△識別標識について
中国
●東シナ海防空識別区航空機識別規則公告2条4項
 標識識別。東シナ海防空識別区を飛行する航空機は、関連する国際条約の規定に必ず従わなければならず、国籍標示と登録識別標識を明確に表示すること。
<自衛隊>
●自衛隊統合達第6号第6条3項
 防空識別圏を飛行する航空機は、固有識別表を携行するものとする。ただし、特に命ぜられた場合を除き、局地飛行又は航空路若しくは日本本土及びその沿岸のみを飛行する場合には、携行しないことができる。
 
 中国のいう関連する国際条約の規定とは、国際民間航空条約第20条「国際航空に従事するすべての航空機は、その適正な国籍及び登録の記号を掲げなければならない。」のことであろうか。
 この項目については、日中とも同様か。
 
△不服従の場合について
中国
●東シナ海防空識別区航空機識別規則公告3条
 東シナ海防空識別区を飛行する航空機は、東シナ海防空識別区管理機関または委任機関の指令に従わなければならない。識別に非協力あるいは指令を拒否する航空機に対し、中国の軍隊をもって防御的な緊急措置を講じる。
<自衛隊>
●自衛隊統合達第6号第7条
 要撃機に捕捉された航空機は、回避行動(急激な進路又は高度の変更等をいう。)を行うことなく、要撃機に指示された場合を除き、飛行計画どおりの飛行を継続するものとする。
 
 中国は指令に従う義務を明確にし、従わない場合は中国軍機が緊急措置を取るとしている。中国外務省の秦剛報道局長は「脅威の程度を見極め、相応の対応を取る」と言っていたが、緊急措置が具体的にどういうことをするのかは不明である。
 例えば、福岡FIR内にある中国の防空識別圏を飛行する民間航空機に中国が指示を出した場合はどうなるであろうか。上海FIR内であれば中国側の管制指示に従うのは当然であるが、福岡FIRを飛行中は日本側の管制指示に従わなければならない。国際条約上、民間航空機は福岡FIRの管制指示に従うだろうが、それでは中国側の指示を無視することになる。中国は、指令を拒否する航空機に対して緊急措置を講じるとしているのだから、何らかのアクションを民間航空機に対して起こすのだろう。それが、領空に接近しないように警告するだけ又は監視するだけなら許容範囲であろうが、指令に従う義務を謳っていながら指令を拒否する行為を許容するのだろうか。
 日本の方は指令に従うことを義務化しているとはいえない。従わない場合も、それによって何らかの措置をするともしていない。そもそも、日本は防空識別圏を法律ではなく訓令と通達で定めている。訓令とは、辞書を引くとこうなっている。
******************
訓令
上級行政機関が下級行政機関に対してなす命令または示達をいう。訓令が文書によりなされた場合を通達という。国の場合,大臣,委員会,庁の長官が訓令を発することができることは明文で規定されているが(国家行政組織法14条2項),明文規定がなくても,それ以外の上級行政機関も訓令を発することができる。訓令は行政機関相互の行政監督権行使の一形態であり,もっぱら行政機関を拘束するものであって国民を拘束しない。このため訓令は必ずしもその全部が公表されているわけではない。
******************
 だから、この訓令は自衛隊員を縛るものであって、自衛隊以外の者に強制力を持たないのである。
 
 防空識別圏は公空若しくは他国の領空に設定されるものであるから、国内法でもって強制力を持たせることは出来ない。だが、中国は国内法でもって公空にも強制力をおよぼそうとしているように思える。中国はICAOの理事国でありながら、防空識別圏とFIRを混同してるいるようにもみえる。
 スクランブルは日本の場合、国籍不明機が領空侵犯する恐れがある時に目視確認や警告を発するために行われる。無線機で領空接近を通告しても、退去の意思がみられない場合に行われる訳であるから、防空識別圏侵入即スクランブルではない。たぶん、通告は福岡FIR内に入ってから行っているのだろう。日本の防空識別圏にも福岡FIRからはみ出している部分もあるが、その部分はレーダーで監視するだけで、スクランブル対応はしていないと思う。中国も同様であることが望ましいが、中国は国際情報を勘案しながら対応を変化させるつもりなのだろう。
 中国の防空識別圏の取り決めが、国際法上妥当なものとは思えないが、アメリカロシア韓国台湾などがどの様な措置を取っているのか、比較する必要はあるであろう。
 
◆日本の防空識別圏の歴史
 羽田空港の西側の1都8県にまたがる広大な空域は、日本の航空機が自由に飛行することが出来ない。この空域は「横田ラプコン(RAPCON、Radar Approach Controlの略)」と呼ばれ、アメリカ空軍の管制下にあり、米軍の許可無く飛行出来ないため、実質的に民間航空機は飛行出来ないのである。日本の領空内にあるにも拘わらず、米軍が航空管制権を握っている空域があるのは、日米安全保障条約によるものだが、遡ればGHQの占領に由来する。
 

 

 敗戦によりGHQに占領された日本は、陸・海軍の解体で軍用機は無くなり、民間航空も全面禁止になった。航空管制権は米軍が掌握し、日本の空は米空軍が管理したのである。
 1950年にアメリカが世界で初めて防空識別圏を設定するが、GHQの占領下(実質的に米軍の占領下)にあった日本にもこの時に防空識別圏を設定したようである。地図には、「ADIZ」の文字と共に「FIR]の文字もあるので、防空識別圏より先に飛行情報区が設定されていた模様である。
 
 福岡FIRには、北方四島や竹島が入っていない。その原因は、飛行情報区設定時に日本が占領下にあったため、その時の状況が反映されているからであろう。飛行情報区はマッカーサー・ラインを参照して区域分けしたのではないか。
 
 1952年に、日本は独立を回復するが、ソ連機による領空侵犯が多発していた。この様な状況に同年11月、在日米軍は日本の領空でソ連機と交戦する承認を本国から得る。旧安保条約では、アメリカが日本を防衛する義務はなかったため、岡崎勝男外務大臣は1953年1月にロバート・マーフィー駐日大使に対して「領空侵犯が発生した場合には米関係当局においてこれを排除するための有効適切な措置をとらんことを要請いたします」と要請し、アメリカが了承(岡崎・マーフィー往復書簡)。米軍による領空侵犯措置任務が開始された。この1ヵ月後の2月16日、ソ連戦闘機2機が領空侵犯。米軍機が警告後、発砲し、ソ連戦闘機1機を撃墜し、もう1機を退去させるたということが発生している。独立後も日本の空は米軍管理下にあったのである。
 1954年に自衛隊が発足し、航空自衛隊も誕生。自衛隊法84条により、領空侵犯措置は航空自衛隊の任務となるが、航空管制権は米空軍が握ったままであった。航空管制権が全面的に移管されたのは1959年のことである。
 1969年、在日米空軍の防空識別圏を沖縄を除いて自衛隊が引き継ぐ。沖縄周辺の防空識別圏も1972年の沖縄返還と共に引き継ぎ、自衛隊が編入した。自衛隊は在日米空軍の防空識別圏をそのまま引き継いだため、与那国島の上空に防空識別圏の境があったが、2010年に与那国島の西側に範囲を広げている。
 
 防空識別圏は自国の防衛のために各国が勝手に設定しているものであるから、重なり合うこともある。しかし、日本、韓国台湾は隣接しながらも綺麗に分かれていた。しかも、与那国島の上空に日本と台湾の防空識別圏の境界があった。この原因は、やはり米軍にあるのだろう。
 日本と韓国には米軍が駐留しているが、台湾にも米中国交回復まで米軍が駐留していた。アメリカが防空識別圏を設定した時には、3国とも米軍の強い影響下にあったのである。日本と同様、韓国台湾も、航空管制権は米空軍が握っていたと思われ、防空識別圏の区分けは米空軍がし、後に日本と同じく米空軍から防空識別圏をそのまま引き継いだのであろう。
 
1945年:日本が占領下に置かれる。
1946年:マッカーサー・ラインが引かれる。
1947年:ICAO発足。
1950年:朝鮮戦争勃発。アメリカが防空識別圏を設定。
1951年:戦後初の国内民間航空定期便が就航。
1952年:サンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約発効し、日本が独立を回復。日米民間航空運送協定調印。
1953年:日本の航空会社による国際線定期路線が就航。
1954年:自衛隊発足。
1956年:運輸省航空局が羽田・伊丹など4空港の航空管制権を米空軍から引き継ぐ。
1959年:日本上空の航空管制を米国から全面的に移管される。
1969年:日本が防空識別圏をアメリカから引継ぎ、設定。
1972年:米軍が平時指揮権韓国軍に移譲。沖縄返還。
1979年:在台湾米軍撤退。
2010年:与那国島付近の防空識別圏を拡大。
 
 中国国防省は「日本は今から44年前の1969年に防空識別圏を設定した。日本側が中国の防空識別圏の設定にとやかく言う権利はない。もし撤回しろと言うのなら、日本側がまず撤回すべきだ。そうすれば、中国も44年後に撤回を検討する。」と強弁していた。確かに、日本は1969年に防空識別圏を設定してはいるが、それは米軍から引き継いだものである。それに、東シナ海に日本が防空識別圏を設定したのは1972年のことである。中国は、極東の空の秩序が作られた経緯を理解していないのではないか。
 
・・・続く。
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国際民間航空機関(ICAO)の概要
http://www.mlit.go.jp/common/000138355.pdf
飛行情報区
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E8%A1%8C%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%8C%BA
航空交通業務 air traffic service
http://www.jal.com/ja/jiten/dict/p324.html
航空管制業務について
http://www.mlit.go.jp/common/000164767.pdf
http://www.youtube.com/watch?v=Wc5hOvd-28g
国際民間航空条約
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S38-T2-1149_1.pdf
絹笠泰男の防衛・軍事法学論集 領空侵犯措置法講義 第1編 国際法の側面
http://gunjihougaku.la.coocan.jp/ryiusin7.html
訓令
http://kotobank.jp/word/%E8%A8%93%E4%BB%A4
 

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