六丈記2

備忘録のようなもの

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靖国神社の放火犯は中国人? 続報16

 1月3日、ソウル高裁が劉強を「政治犯」と認定し、日韓犯罪人引き渡し条約に基づく引き渡しを拒絶する決定を下した。韓国政府はソウル高裁の決定に従わないことも可能だったが、高裁決定を尊重するという形を取り、速やかに劉強を中国大使館へ引き渡した。韓国政府は早く厄介払いをしたいという心境だったのかもしれない。
 1月4日、劉強は航空機で韓国を出国し、上海入り。中国では英雄の凱旋と捉え、中国政府のみならず、多くの人民も歓迎している様子だった。
 
 ソウル高裁が劉強を「政治犯」と認定しなければ、この様な結果にはならなかった。何故、この結論に至ったのか。その根拠を韓国の連合ニュースが伝えているので、機械翻訳を利用して訳してみる。

******<法院が靖国放火 '政治的犯罪'で見た根拠は>******
http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2013/01/03/0200000000AKR20130103191400004.HTML
日本の過去の歴史・国際社会共通認識・信念など提示
(ソウル=連合ニュース) キム・ドンホ記者

 ソウル高裁が3日、中国人の劉強に対して日本への犯罪人引き渡しを拒絶する決断を出した根拠は、彼が日本軍国主義の象徴である靖国神社に火をつけた行為を「一般的な犯罪ではない政治的犯罪」と判断したためだ。
 日韓犯罪人引き渡し条約3条「引き渡し拒絶」の項目をみると、「被請求国は、引き渡し請求される犯罪を政治的犯罪であるか、あるいは政治犯と判断した場合、犯罪人引き渡しを許可しない」と規定されている。国内法人犯罪人道法にも同じ内容が盛り込まれている。
 劉強に対する犯罪人引き渡し裁判を担当したソウル高裁刑事20部(ファンハンシク首席部長判事)は国際法上の 「政治犯不引渡」原則に基づき、靖国放火事件が一般犯罪の性格と政治犯罪の性格、どちらが主なのかに重点を置いて裁判を進行した。
 審理の終わり、裁判所は「一般犯罪より政治犯罪の性格が強い」と結論を出した。
 裁判所は政治犯罪の判断基準に
▲犯行の動機が個人的なものではなく、政治的なのか
▲犯行の目的が一国の政策を変化させようとしたものか
▲犯行対象が何を象徴するのか
▲犯行と政治的な目的が有機的に関連性があるか
などを提示した。
 また、
▲犯行の法的・実体的性格
▲犯行の残虐性
も一緒に考慮した。
 裁判所は既存の判例が無いため、国内外の学説など様々な資料を検討し、このような基準を出したことが分かった。
 このような基準を苦心して決めた末に裁判所は、まず劉強が「日本軍慰安婦など、過去の歴史的事実に対する日本政府の認識と政策に怒りを感じた結果、圧力を加えようとした犯行だった」と判断した。
 劉強のこの様な政治的信念は、韓国中国をはじめとする国際社会で幅広い共感を形成しており、放火で個人的な利益を得ようとする動機もなかったという点を判断の前提とした。
 裁判所はまた、犯行対象の靖国神社は 「法律上は宗教団体の財産であるが、国家施設に相応する政治的象徴性がある」とした。
 日本の対外侵略戦争を主導した戦犯たちが合祀されていて、周辺国の反発にも拘わらず日本政府の閣僚が参拝を続けているという理由による。
 放火によって、人的被害が発生せず、物的被害も少なく、反人倫的犯罪と見る余地もなかったと裁判所は判断した。
 裁判所はこのような判断を基にして、「日本と韓国中国との間の歴史的背景、政治的状況、大多数の文明国の普遍的価値を考慮した時、この事件は「政治犯罪に該当する」とし、国内法、国際法、人道主義の原則に基づいて犯罪者の引き渡しを不許可にするという最終結論に達した。
*****************************************************
 
 政治犯というと、アウン・サン・スー・チー氏のように反政府的とみなされる言動や活動が原因で、自国政府によって不当に扱われている人物を思い浮かべる。所謂、思想犯だ。しかし、その様な場合以外でも政治犯に該当することがあるらしい。
 改めて調べてみると、「はてなキーワード」の解説には下記の通りの記述がされていた。

**************** 政治犯 せいじはん ****************
 政治犯罪または政治犯罪人。国事犯ともいう。
 政治犯罪とは、特定の政治体制の変革ないしは特定の政策の変更を目的として犯される犯罪。大逆罪や大逆未遂罪のような特別な犯罪のみを政治犯罪とする定義もあるが、支配的な見解では、特定の政治体制の変革ないしは特定の政策の変更を目的とした犯罪は、殺人罪など通常の犯罪であっても政治犯罪とする。
 特定の政治体制の変革ないしは特定の政策の変更を目的とした行為であるが故に触法するような場合は、純粋な政治犯罪あるいは絶対的政治犯罪と呼ぶ。これに対して、通常の刑法犯罪であっても、政治的行為と密接に関連することにより政治犯罪とみなされる場合は、相対的政治犯罪と呼ぶ。
<絶対的政治犯罪の例>
 大逆罪、不敬罪、治安維持法違反、内乱罪、外患罪など。
<相対的政治犯罪>
 相対的政治犯罪とは、特定の政治体制の変革ないしは特定の政策の変更を目的とした犯罪のうち、以下の条件を満たすものという解釈が支配的である。
(1)その行為が、純粋な政治犯罪の成功を準備または確保する目的で行われたものであること
(2)行われた犯罪とそれによって追求された目的との間に直接的で有用な関係が存在すること
(3)行われた犯罪の内容、性質、結果の重大性等を鑑みて、追求された政治目的との釣合いを失していないこと
******************************************************
 
 通常の刑法犯罪でも、場合によっては政治犯(相対的政治犯罪)の扱いを受ける可能性があるらしい。だから、日本にとっては、劉強はただの放火犯(容疑者)でしかないが、政治犯と認定される余地はある。
 考えてみれば、実情は別にして、政治犯(相対的政治犯罪)だから処罰すると言う国はあるはずも無い。政治犯かどうかが問題になるのは必然的に当該国以外になる。韓国政府が政治犯であるかの認否を検討する事はおかしいことではない。韓国政府は合理的、常識的に判断したらよいのだ。
 ただ、「政治犯不引渡の原則」は一般国際法上の原則(一般的慣行で国際法上の義務ではない)とされているが、国際法上、政治犯の明確な定義が無く(「国家の権力関係、および国家の機構に対する攻撃」という認識は広く受け入れられているようであるが)、その上多くの国では政治犯罪の概念を実定法で規定しないまま、政治犯かどうかの判断を各国政府が独自に解釈しているのが現状らしい。(政治犯罪の概念を実定法で規定しないのは、定義することが困難であることに加え、実際の法の運用に支障が出ることを避ける面もあるとのこと。)
 特に、相対的政治犯罪は政治犯罪の要素と普通犯罪の要素のいずれをも含むだけに、その線引きが重要で困難だ。しかしながら、引き渡しの可否を決定するのであれば、何らかの基準を示さない訳にはいかない。だから、ソウル高裁は処分に当たり独自の基準を打ち出したのだろう。
 
 政治犯であるかの認否の判断は最終的に国家の裁量に委ねられている。しかしながら、その判断基準が世界各国のそれぞれの基準(統一基準は無いにしても)からあまりにも懸け離れているとしたら、国際的な理解は得られないだろうし、引き渡し請求国も到底納得しない。
 今回、ソウル高裁が定めた判断基準は国際的にみて妥当なものなのだろうか。他国と比較してみる。
 
 古い事例であるが、島田征夫氏の「政治犯罪概念の国際法的考察」にはスイスとイギリスの政治犯(相対的政治犯罪)不引渡について書かれている。その中で、スイスにおいて普通犯罪が相対的政治犯罪であるとみなされるための要件が詳しく説明されているので、スイスにおける実情とその要件をまとめて書き出してみる。なお、イギリスについてはスイスの相対的政治犯罪の判断規準が受け入れられているとあるので割愛する。
■スイスの場合
 スイスは優越理論を採用していて、長い論議の末に相対的政治犯罪の概念を定義しないこと、及びあらゆる事情を関連させながら間題となっている犯罪の性質を正しく判断する権限を連邦裁判所が行うとしていた。したがって、連邦裁判所は事件が生ずる度にそれぞれの事件について状況を考慮しつつ問題を処理していた。
※優越理論:いかなる普通犯罪も政治的性格を持ちうるとの原理に基づき、犯罪の主要な特徴が政治犯罪の要素よりも普通犯罪の要素をより強くもっている場合には、その政治犯は引渡されるとする理論。
 判例から普通犯罪が相対的政治犯罪であるとみなされるための要件、すなわち、犯罪の政治的要素が普通的要素を上回るための要件を抜き出すと以下のようになる。
①対象となる犯罪は次の3つ
1)純粋な政治犯罪の成功を準備または確保する目的で行われた普通犯罪
2)犯行の動機、目的、または犯罪が行われた際の事情によって政治的性格をおびている普通犯罪
3)身体への危険はないが、政治信条を異にするため住み心地が悪いので、外国へ逃亡する際に犯された普通犯罪
②行われた犯罪とそれによって追求された目的との間に直接的な関係が(主観的に)存在すること
③行われた犯罪は、追求された政治目的との釣合いを失した残虐行為を含むものではないこと
スイスは1981年に「国際刑事司法共助に関する連邦法」を制定し、上記旧法を廃止。犯罪人引渡し等を規定している。その中で、政治的性格を帯びるものであるという抗弁を認めない行為も定めている。
 
 次に日本における事例。平成2年の東京高裁判決(中国人ハイジャック犯引渡審査請求事件)において相対的政治犯罪について触れているので、整理して書き出す。
■日本の場合
 相対的政治犯罪の解釈については事案毎の個別的事情を多角的に検討し、その行為がどの程度に強く政治的性質を帯びているか、それは政治的性質が普通犯的性質をはるかに凌いでいるかを明らかにした上で、健全な常識に従って個別的に判断するとしている。その判断の重要な指標として次の要件を挙げている。
①その行為は真に政治目的によるものであったか否か
②その行為は客観的に見て政治目的を達成するのに直接的で有用な関連性を持っているか否か
③行為の内容、性質、結果の重大性等は、意図された目的と対比して均衡を失っておらず、犯罪が行われたにもかかわらず、なお全体として見れば保護に値すると見られるか否か
 
 スイスの要件と日本の要件を比べると似ていることが分かる。東京高裁が援用したのだろう。国際的に見てもこの様な判断基準は妥当なものと考えていいのではないか。
 ここで、ソウル高裁が定めた判断基準に立ち戻ってみると、上記判断基準とあまり変わらない。基本的に優越理論を採用しているし、犯行目的の政治性や犯行と目的の関連性、犯行と目的の釣合いにも言及している。更には、「特定の政治体制の変革ないしは特定の政策の変更を目的として犯される犯罪」、「国家の権力関係、および国家の機構に対する攻撃」という政治犯罪の認識として広く受け入れられている考え方も取り入れている。「国内外の学説など様々な資料を検討した」としている通り、国際的に通用している見解を広く受け入れたのだろう。ソウル高裁の判断基準は国際的にみて妥当なものと思ってよさそうだ。
 

次エントリーに続く・・・

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