六丈記2

備忘録のようなもの

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<ショートショート>北朝鮮の弾道ミサイル

「情報担当者が面会を求めてます。」
 若い女性秘書が来客を告げた。この情報担当者はこの部屋の主の側近の一人で、主にとっては心を許せる数少ない話し相手でもある。
「通せ。」
 主の小太りの若い男はソファに座りながら、横柄に答えた。
 女性秘書に導かれて側近が入室し、男の前に立った。
「敬愛する金正恩大将に報告します。我が国が打ち上げる人工衛星に対し、アメリカ、日本、南鮮が反発しています。」
「そんなことか。飛行ルートが他国の領土を通過しないように設定してあるのに大騒ぎするとはしょうがない連中だ。」
「いかがなさるのでしょうか。」
「予定通り打ち上げる。4月15日は祖父の生誕100年だ。その大事な記念日にロケットを打ち上げ、国民に俺の指導力を見せ付ける重要性はお前も理解しているだろう。」
「ですが、アメリカは予想外に強硬姿勢です。2月の合意に違反していると、食糧支援の中止や軍事介入までちらつかせてます。」
「ブラフだよ。アメリカはイランの問題で我が国にかまっているヒマはないさ。人工衛星だと言い張っていればいい。」
 金正恩は自信たっぷりに言い放った。
 側近は金正恩の様子を見ながら、なおも食い下がる。
「それで、アメリカが引き下がるでしょうか。軍事介入は無いにせよ、もしも、食糧支援が金主席生誕100年記念に間に合わなかったらどうしましょう。」
 金正恩は身を乗り出し、小声で話し出す。
「お前も心配性だな。実は既に手は打ってある。世界のどの国も納得する方法だ。」
 側近がそんな妙手があるのかと考えていると、不意に金正恩が立ち上がり、声を掛けた。
「これから出かける。お前も付き合え。」
 側近は金正恩の後に続き、部屋を後にした。

 

 二人は車に乗り込み、目的地も分からないまま走り出した。
 側近が何処に向かっているのだろうと窓の外を眺めていると、それを察したのか金正恩が得意げに話し出す。
「これから、我が国の英雄に会いに行く。我が国の希望の星になる男だ。」
 そんな男がいたのかなと思いつつ、側近が質問する。
「金正恩大将が態々足を運ばなければならない英雄がいたのですか。」
「出向くというより、その場所に行かなければならないのだ。」
 会話が終わらないうちに、車は目的地に着いた。門には撮影所と書かれていた。

 

 SPに囲まれながら撮影所の中を歩き、二人が屋外セットの入り口に着くと金正恩が立ち止まり、セットの中央に立つ男を指差した。
「あの男が我が国の英雄だ。」
 指差す方を見ると、その男は屈強そうな若者だった。しかも、レーシングスーツのようなものを着ている。
「しばらく時間がかかるから、お前は車で待っていろ。」
 怪訝な表情を浮かべる側近に金正恩はそう言うとセットに向かって歩いて行った。
 側近は何をしているのか気になり、遠巻きに見ていると金正恩が若者に抱きつき握手をしている。金正恩が離れると、北朝鮮の幹部連中が若者と次々に握手をし出した。しばらく、握手責めが続いた後、一通り撮影が終わったのか、一団は屋内に移って行った。

 

 側近は言われたまま車で待っていると、1時間程して金正恩がやって来た。
 金正恩は車に乗り込むなり、ぼやいた。
「服を何度も着替えさせて何シーンも撮影したので、思ったより時間がかかってしまった。」
「それはお疲れ様でした。ところで、あの若者は何者なのです。」
「今度打ち上げるロケットに乗る軍人だ。」
 側近が驚いた顔で金正恩を見つめていると、金正恩が話を続ける。
「過去2回は無人だったが、今回は有人にした。ソ連、アメリカ中国に続き、我が国が4番目の有人宇宙飛行をする国になる。祖父の生誕100年を祝うのに相応しいだろう。」
 側近は喜びを隠さず、質問した。
「我が国のロケット技術はいつの間にかに発展していたのですね。存じ上げませんでした。我が国の技術者は何処の国で有人飛行実験をしていたのですか。」
「実験はしていない。」
 金正恩は平然と答えた。
 側近は困惑しながらも、恐る恐る訊いた。
「大気圏に再突入する技術は大変難しいと聞いていますが、帰還カプセルはそれで大丈夫でしょうか。」
「我が国に失敗は無い。それに帰還カプセルも無い。」
「しかし、それでは帰還出来ませんが。」
「帰還ならもうしているのではないか。さっき、帰還シーンの撮影を済ませただろう。」
 側近は有人宇宙飛行を実際に行うのではなく、アピールするだけなのだと悟りがっかりした。それでも、側近は気を取り直し、話題をずらして金正恩に話しかける。
「今回のテポドンの改良型は前回のよりかなり大きくなるのでしょうか。」
「ああ、大きくなるようだ。人間が搭乗するスペースを作ったために、特に太さが大きくなったようだ。」
「えっ、宇宙飛行士を搭乗させるのですか。」
「そうだ、実際に乗せる。搭乗シーンや打ち上げシーンを各国の賓客に見せる予定になっている。」
 なんと言ったらいいか言葉見つからない側近を尻目に金正恩はなおも続ける。
「弾頭を載せて発射したら弾道ミサイルだが、人を載せて打ち上げたらロケットだろ。これで、どこの国も弾道ミサイル実験と非難できなくなる。弾道ミサイル実験も堂々と出来て、一石二鳥だ。どうだ、いい手だろう。」
「そうですね。しかし、あの若者は・・・」
 側近はそう言ったところで話すのをやめた。若者を不憫に思っても、北朝鮮では仕方が無いことなのだ。
 側近が若者に思いを馳せていることに気付いた金正恩は先ほど会った若者について触れた。
「なぁに、気にかけることは無いさ。あの若者は我が国初の宇宙飛行士なれると大喜びしてた。俺が祖国の星になってくれと声を掛けたら泣いて喜んでいたよ。地球を回る本当の星になるとも知らずにね。」
 そう言うと、金正恩は笑い始めた。
 側近は窓の外を眺めながら、星屑になるより海の藻屑になる可能性の方が高いだろうなと思った。

 

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